平成15年 7月18日 独立行政法人 農業工学研究所 ケーブルのいらない土中埋設計器の開発 ―土構造物のモニタリングに新時代を拓く― 1.研究の背景とねらい 土構造物の安全性を診断するためには,その内部に計器を埋設し,各種の物理量(変形量,水圧,土圧等)を測定することが行われています。今後予想される土構造物の老朽化診断や改修の必要性の診断を行う上からも,埋設計器の重要性は益々増加することが考えられます。従来用いられてきた埋設計器はデータの転送および電源の供給のために,土構造物の外に設けられた測定装置(データロガ)までケーブルを繋ぐことが必要でした。ケーブルの存在は,以下の点で問題がありました。 (1) 土構造物の安全性が低下することがあります。:埋設計器は本来土構造物に対しては異物として作用します。埋設計器の占める部分が小さいほど土構造物の安定性には好ましいものとなります。ケーブルの存在は点としてだけでなく,線としても異物が土構造物に存在することになり,構造安定上からも好ましいものではありません。また,ケーブルを敷設するために設けられた溝が弱部や水みちとなることによって,土構造物の安全性が低下することがあります。 (2) 計器の故障の原因となることがあります。:ケーブルの断線,絶縁低下およびケーブルからの誘導雷等により計器が故障することがあります。 (3) 施工の障害や敷設困難となることがあります。:ケーブルを敷設するためには,上記(1)の懸念を無くすために,設計および施工には十分な配慮が必要であり,そのために多くの労力が払われます。工事の工程上のネックとなることもあります。また,ケーブル敷設の困難さのために,既設構造物への埋設ができない場合もあります。 (4) コストがかかります。:ケーブルの敷設のためにかなりのコストがかかります。 このような問題点を解決するために,ケーブルのいらない埋設計器を開発することが必要です。今回開発した計器と従来型埋設計器の計測方法の違いを図−1に示します。 (1) 今まで,通信に用いられることのなかった低周波数電磁波(8.5kHz)は,距離減衰は非常に大きいが,媒体(土)の誘電率や導電率による減衰は理論上少ないことがわかっています。まず,この電磁波の土中での通信特性を調べました。デジタル技術との組み合わせにより信号/ノイズ(S/N)比2以上であれば,十分に安定したデータ送信が可能であることがわかりました。この計器の通信概念を図−2に示します。 (2) この研究では,フィルダム(土や岩で造られたダム)に埋設することを念頭に,送信距離,小型化,耐久性を基本性能試験(通信温度特性,筐体(ケース)強度・耐水圧試験,電池寿命試験,伝送特性試験)を通して追求しました。その結果,送信距離は土中100m,寸法(直径125mm,高さ205mm),電池寿命10年を達成しました。図−3に示すような構造をもった間隙水圧計を開発しました。 (3) 現地埋設試験を行い,埋設の方法を送信効率が最も良くなるように決定しました。また,FRPケース内部の空隙(図−3参照)への充填材を検討し,埋設後に土構造物と一体した挙動が得られるように,盛土材と同程度の比重とすることとしました。 (4) 現在,実際のダムに埋設し計測を行っています。その結果を図−4に示します。良好な計測結果が得られています。 土中でのデータ送信を可能にしたワイヤレス間隙水圧計を開発しました。この間隙水圧計では,低周波数電磁波とデジタル送信技術を駆使することにより,土中100mの送信距離を可能にしました。また,送信プログラムを改良することにより,電池寿命10年を達成しました。耐久性の確保,土構造物との一体性の確保,小型化により,十分に実用に供します。本器は今後の埋設計器を用いた計測に新たな時代を築くとともに,将来的には,更なる小型化により,小指の先程度のセンサーを埋めるだけで計測が可能になることや,いくつかのセンサー機能を持ったマルチセンサーなどの出現を可能にする技術です。計測が,より身近に,手軽にまさに,ユビキタス思想に合致することも夢ではなくなります。
研究担当部長 :農業工学研究所 造構部長 竹内睦雄 電話:029-838-7569 特許出願中 2003−22200
図−4 実際のダムでの間隙水圧計測結果(ワイヤレス間隙水圧計No.1と従来型間隙水圧計 CP-71はほぼ同位置に埋設) |
![]() |
||||||
![]() |
このページの先頭へ | ![]() |
坂田電機のTopページへ | ![]() |
||
![]() |
![]() |
![]() |
|
|||
Copyright © 2004 Sakatadenki Co.,ltd.
All rights reserved.
|